本書は、和書として初めて幾何学的代数(Geometric Algebra、以下GA)を取り 扱う教科書である。それだけでなく、四元数やグラスマン代数など、背景にあ る代数系を各章で丁寧に解説している点が特長である。これらの代数系をある 程度理解していないと、GAを学ぶ上でつまづくことがあるため、読者にとって 親切な構成となっている。
実際に私も断片的な知識しか持っていなかったが、一読するだけでもそれらがど うリンクするのかわかり、理解が深まった。またもちろん、和書ということで日 本語で書かれていることもありがたく,かなり理解の助けになった。
第8章の共形幾何学は本書のクライマックスともいえる。ここまで読み進めば、 3次元空間上の点・直線・円・平面・球面に対し、それらの交差・結合(7.6節) や回転・鏡映等の変換(8.5節〜)を演算により求められることがわかる。
これが実際に役立つのか疑問を持った方には、本書を片手に計算機で演算結果 を確認することをお勧めしたい。最近は「Geometric Algebra library」でウェ ブ検索すると、便利なプログラミング用ライブラリが複数見つかる。可視化処 理を備えたライブラリもあるため、目で見て納得できる。実際にプログラムを 書くと、3次元空間上の各種形状(表8.1, p.176)を簡単に計算できることが確 かめられる。
実際に物体認識などの場面でGAを使用すると、演算の結果どんな形状が出現した か、どんな演算が行われたか、追えなくなることがある。本書にはそんな時に役 立ちそうな式や導出過程が掲載されているため、今後も参考書として活用させて いただこうと思う。