伊東敏夫 (ダイハツ), 計測と制御, Vol. 35, No. 2, 1996

計算機に視覚機能を与えるコンピュータビジョンは、あらゆる分野についての 応用が考えられる魅力的な分野である。すでに30年以上研究されているにも 関わらずいまだに十分な視覚機能が実用化されていないのは、この分野に基礎 理論がないためであるといわれはじめている。本書はコンピュータビジョンの 基礎理論の1つとしての幾何学的な統計学の入門所といえる。

本書は10章から構成されている。第1章で筆者の観点を紹介したのち、第2 章では距離の概念を与え、第3章は2次曲線が表わす図形を分類し、射影幾何 学の立場から基本的な事項を解説している。第4章は関数の性質の幾何学的な 意味を説明し、各最適化手法やラグランジュの未定乗数法を述べている。第5 章では2次元確率分布の表現と変換則を述べ、2次元正規分布の変換が共分散 行列の変換に帰着することを示している。第6章と第7章では統計的な概念を 幾何学的に説明し、分散化が最小という意味で最尤推定が最適であることを説 明している。第8章ではあてはめ問題について、誤差が等方的な場合、異方的 でかつ分布がデータごとに異なっている場合についての計算手法を説明し、著 者の開発したくりこみ法を解説している。第9章は主観確率をめぐるベイズの 立場と非ベイズの立場を紹介し、ベイズ推定を説明している。第10章では画 像処理・コンピュータビジョンへの応用として、ステレオ視による3次元復元 問題、動画像からの3次元復元問題、オプティカルフローの検出手法などを紹 介している。また、各章末の適切な演習問題の解答が掲載されている。

本書は初心者を対象としているが、従来の概念を幾何学的に解釈するプロセス や理論展開の方法は専門家にも参考になり、コンピュータビジョンの基礎理論 を考えるうえでも価値ある好書である。