エンジニアと話をすると,「工学に使えそうな話があっても,数学の専門書を読むと証明のオンパレードで,まったく読めない.なんとかならないものか」という話を聞くことがあります....(中略)...
こういうとき,エンジニア向けの数学IVの本が必要だな,と思います.この手の本は,数学者が書くと,普遍性は高いものになりますが数学科数学の本になってしまい,エンジニアが書くと,個別の事例の話になってしまって普遍性が損なわれがちです.数学IVの書き手はなかなかいない,という気がします.
以前から,この種の本を書こうという試みはいろいろありました.現在なら,岡山大学の金谷健一先生の書いた「これなら分かる応用数学教室−最小二乗法からウェーブレットまで」(共立出版)が,本書でいう「数学IV」として完成された素晴らしい本です.内容は信号処理,画像処理に使われる数学を中心とした解説で,ウェーブレットについても詳しく書かれています.
金谷先生は,画像処理を専門とする工学者ですが,「これなら分かる応用数学教室」を読むと,数学科数学のデリケートな部分についても配慮がなされており,本職の数学者が読んでもおもしろく,得るものがある本に仕上がっています.また,普遍性を損なうことなく,有効な事例が紹介されています.
これは当然のことのように思われるかもしれませんが,実際書くとなると,なかなか難しいことなのです.
このような本がもっと増えれば,理想的だと思います.