感想:金谷一朗(大阪大学)

金谷(かなたに)健一先生の「幾何学と代数系 (Geometric Algebra):ハミル トン,グラスマン,クリフォード」を読んでいる.

僕は2003年に「ベクトル・複素数・クォータニオン」という本を書いた(無料 で配布している).またI/O出版社のご厚意で「3D‐CGプログラマーのための クォータニオン入門:「ベクトル」「行列」「テンソル」「スピノール」との 関係が分かる」という本も上梓させて頂いている.これらの本はハミルトンの 発見したクォータニオン(四元数)に関するもので,ハミルトンとは,金谷健 一先生のご本の副題にあるハミルトンと同一人物だ.「ベクトル・複素数・ クォータニオン」のほうではグラスマンにも触れている.(ちなみにグラスマ ンは我がアルベルト・アインシュタインの大親友で,僕が男の中の男と表する 人物でもある.)

ここで僕は断言せざるを得ない.

もし金谷健一先生のこの本が2003年に出版されていたら,僕は決してクォータ ニオンに関する本を書かなかっただろう.この本には,僕が書きたかったこと が(対比するのも恐れ多いことだが)全て書かれている上に,僕がその表層し か触れられなかったクォータニオンの真髄が,スピノルも含めてきっちりと, コンパクトに,まとめられている.

しかし僕はもう書いちゃった.僕はI/O出版社版のほうで,プログラマに向けて 数学書を書きたいという夢を実現させて頂いた.この部分は,おそらく僕の本 のユニークな部分だと思う.現代数学の基礎的概念をC++の用語を用いて説明し たのは,今でもユニークだと思う.

優れた書籍は,物書きをインスパイアするものだ.金谷健一先生の本のお陰で, 僕も自著の改訂版に着手する素晴らしいきっかけを得たように思う.僕ももう 一度書く.

クォータニオン本の改訂版にご期待を.